皆様にお酒のお好みを聞くと、圧倒的に聞くのは『辛口』というワードですが、その次にと言っても良いくらい聞くのが『純米で』という返答です。特にお酒好きな方になればなるほど、純米系を望まれる傾向が強いようにも思います。
その理由を聞いてみると、大体はアルコール添加されているお酒(以後、アル添酒)は体に悪いとか、頭が痛くなる・悪酔いするとか、混ぜ物が入っているのは嫌だというような事が多いです。
では本当にそうなんでしょうか?醸造アルコールは体に良くなかったり、悪酔いの原因なんでしょうか?では、そもそも何故アル添するのでしょうか?その効果や理由をご存じですか?今回はその辺りを中心にお伝え出来ればと思っています。
【醸造アルコールとは】
サトウキビなどを原料とした蒸留酒。甲類焼酎の様なものであり、醸造アルコールに加水して薄めた物が、梅酒を漬けるときなどに良く使われる「ホワイトリカー」で、無味無臭無色のアルコールです。
醸造アルコールが体に悪い(悪酔いする・頭が痛くなる等)なら、梅酒や一部の果実酒等を飲んでも同じ事なはずです。つまり、皆様が目の敵にしている醸造アルコールとはそんなに悪者ではないという事です。
それでは何故醸造アルコールが悪者扱いされているか?それは多分、三増酒の存在であると思います。
【三増酒とは】
米から生成されるアルコールの約2倍の醸造アルコールを加え、3倍に薄めてお酒を造る事で、第二次世界大戦時の米不足の際に行われていた醸造方法。薄くなった味を補う為に糖類などの人工甘味料を加えていた。
これこそが私は日本酒業界の最大の汚点だと思っています。米が足りない状況でなんとかお酒を造らなければという苦肉の策だったかも知れませんが、この事が日本酒というお酒の品位を大きく下げてしまったと感じています。
三増酒のアル添の目的は、増量であったのですが、結果的に大幅なコストダウンにも繋がり、そのために米不足が解消されてきても三増酒はなくなりませんでした。本来は緊急時に造ったもののはずが、儲けのために造られるようになり、醸造アルコールを大量に加え、薄くてまずいお金儲けのために売るという時代が続きました。
(三増酒問題については、話すと長くなるので、詳細はまた別の機会に書きます)
実は2006年に制定された酒税法により、清酒として認められなくなったので、それ以降は存在していません。(リキュール扱いになるので、リキュールとして存在している可能性はあります)しかし、未だにその事で醸造アルコールが悪者扱いを受け続けているという事です。
【普通酒と特定名称酒のアル添の目的の違い】
三増酒がなくなって次にターゲットになるのが普通酒の存在です。
普通酒と特定名称酒は、許されているアルコール添加の条件が異なります。
普通酒は、白米の2分の1の重量まで醸造アルコールの添加が許されています。また、味を補うために三増酒と同じく糖類等の人工甘味料を加えているものもあります。
対して特定名称酒は、白米の10%以下に限られています。もちろん人工甘味料の添加は認められません。
また、二つのアル添の目的も異なります。普通酒にアル添する理由は、三増酒と同じくコストダウンと増量目的が殆どです。
対して特定名称酒は、酒質の安定や香りを出しやすくする目的で添加されます。
【特定名称酒のアル添の効果】
特定名称酒のアル添の目的は、香りを出す事と味を安定させる事と言いましたが、その辺をもう少し詳しく解説します。
香りを出すというのは、日本酒(特に吟醸、大吟醸)の香り成分のカプロン酸エチル・酢酸イソアミルなどは、非水溶性のためにアルコールには溶けるが、水には溶けない特性がある。そのためにお酒を搾った際に酒粕の方へ香り成分が残り易く、お酒に香りが残り難くなってしまう。それを補うためにアル添することで、香り成分をアルコールに吸着させ、より多くの香りを引き出すことが出来る。
味の安定については、無味無臭のアルコールを添加することで、味のバランスを整え、キレとすっきりとした飲み口を与える。
このように、特定名称酒のアル添は決してコストダウンや増量目的ではなく、日本酒の香りと味を調整するために行われています。実際に鑑評会などに出品されるお酒にアル添酒が多いのもそういった理由からです。
醸造アルコールを添加した日本酒の魅力の一端が伝わったでしょうか。コストダウンやリーズナブルな価格を実現させるのが目的の場合もあることも理解したうえで、純米酒とアル添酒のどちらがよいか悪いかということではなく、あまり先入観にとらわれずに自分の目と鼻、そして舌で確かめてみましょう。純米酒には純米酒の、アル添酒にはアル添酒の良さがあるという事を理解したうえで、今後の日本酒ライフを楽しんで頂けたらと思います。そのことで皆様の日本酒の楽しみの幅も増えてくると思います。